
となりの用心棒 (角川文庫)
腕っ節はめっぽう強いが情には弱く、いつも女に振り回されてばっかりの主人公。
その主人公を取り巻く数々の女性たち、事件。
男のツヨサと、女のツヨサは違います。それをここまで面白く、興味深く書けるのか。作者の腕は確かです。
素晴らしいたくさんの登場人物と、ツヨク、それぞれの道を生きる女性たちを、ぜひ感じてみてください。ご一読をお勧めします。

占い屋重四郎江戸手控え
一読して、手堅い、というのが印象です。
天眼通という、千里眼のような能力を持った貧乏浪人が主人公です。
腕は立つものの、それでは食っていけず、天眼通を用いて、客の失せ物探しや、勝負の結果予想などをして金を稼いでいます。
セリフが多少どうかなと思わないでもありませんが、時代劇の雰囲気は十分に出ていると思います。
ストーリー運びも悪くないです。
難を言うと、華やかさがいまひとつです。
おみつ、という薄倖の少女を、著者はマドンナ的な設定としているようなのですが、これがいまひとつ影が薄いのです。
それよりむしろ、第2話で出てきたおさよを、そのままでんとコンビにすえてほしかったです。こちらは元気いっぱいで、ヒロインの素質十分です。1話限りはなんとも惜しいです。
時代劇ファンなら読んで損のない本です。
時代劇ファンでない人は、第3話「老剣客の恋」をなにかの機会に読まれてもよろしいかと思います。独立して、ドラマにできそうな話です。NHKあたりが、「時代劇スペシャル」として、取り上げてくれないものでしょうか。

剣客瓦版つれづれ日誌
お家騒動の最中惨殺された妻、その妻が背負った悲しい秘密。
弓削玄之助は妻の今際の際の言葉を胸に江戸に出て瓦版書きとして市井に生きる。
その妻の今際の際の言葉に隠された秘密こそがお家騒動を解決する重要な手がかりとなる。
弓削玄之助が全編を通してこの謎解きをしながら幾つかの瓦版ネタごとに物語が完結する。
個々の瓦版ネタは悲しい幕切れが多いが人の心の奥底を垣間見せる。
全編を通して瓦版屋の娘「お峰」が落ち込みそうになる読者を救ってくれる。
特に最後の「遺言」の章は良いと思います。
離婚や不倫のネット書き込みがやたらと多い昨今の世情を考えますと、
男と女、夫と妻が寄り添う意味をちょっと考えさせられます。
欲を言えば表紙の絵が残念です。
女性の着物が江戸時代のものと見えないことが大変残念です。
表紙の絵は大切と思います。

コンビニ・ララバイ (集英社文庫)
妻子を事故で亡くしたオーナー経営の、コンビニエンスストアを交えて語られる短編七編。
人間のどうしようもない「引きずられる」感情が赤裸々に描写されています。
死者に、身体に、思い出に、感覚に、習慣に。みんな、すごいひきずられてます。
基本的に痛い、あるいは混乱した状態から話が始まって、最後は「ここがスタートだ」「ここでやっと何かに気づいた」というエンディングを迎えます。
よくまとまっていて、連作ドラマにしやすそうな短編群です。
凡庸と言えばそれまでか。